【バックカントリー】ソロの入山でもビーコンを身につけている理由
「ソロでバックカントリーに行くときもビーコンを着けましょう!」なんて、偉そうなことが言えるほど、私には、立場も経験もないことは自覚しています。
ですが、このブログで雪崩に流された体験を記事にしたところ、少しですが読んで頂けるようになりました。
そこで、情報を拡散する意味を込めて、今回は、私がソロで入山するときでもビーコンを持っていく理由を書いていきます。
助けてもらうという意味はない
「ビーコンは、雪崩に埋まったときに仲間を助けたり助けられたりするものだから、1人のときは持っていても意味がない!」
ソロで入山するときにはビーコンは要らないという方には、このような考えがあると思います。
確かに、その通りです。
1人でバックカントリーに行って雪崩に巻き込まれた場合、ビーコンを使って助けてくれる仲間はいないので、「助ける」という役割は果たせません。
ですが、それでも私は身につけることにしています。
その理由が、「迷惑を最小限にする」ということです。
自己責任では済まされない
バックカントリーでは「自己責任」という言葉がよく使われますが、なにかが起こったときには、自分の責任だけではどうにもできないことがあります。
想像したくもありませんが、それが、雪崩に埋まってしまったときです。
注意して行動しているつもりでも、雪山に行く限り、その可能性はゼロにはなりません。
もし、そうなったとき、私の家族は捜してほしいと思うでしょうし、警察やパトロールの方も捜さざるを得ないと思います。
「自己責任で行ったんだから、放っておこう」とは、できないでしょう。
結局、「自己責任」とか言っていても、誰かに迷惑を掛けることになってしまうんです。
その誰かの負担を少しでも減らすために、ビーコンを持つことにしています。
以下で、その具体例を書いていきます。
捜索隊の負担を減らすために
私が雪崩に埋まってしまったとき、まず、迷惑をかけるのは、私を捜しに来てくれる捜索隊の方だと思います。
その方たちの負担を減らすために、ビーコンが役立ちます。
もし、私がビーコンを身につけていなければ、捜索隊はプローブを使って捜すことになるでしょう。
けれども、プローブ捜索は効率が悪く、時間も労力もかかります。
プローブ捜索の経験がない私が語っても、うまく伝わらないと思いますから、私が雪崩の講習会を受けた日本雪崩ネットワークのページからを引用させて頂きます。
20人で20時間 vs. 1人で5分。
プローブによる埋没者の捜索活動は過酷です。
雪崩による埋没者がビーコンを装着していない場合、プローブという3m程度の長さを持つ金属の棒を積雪内に突き刺すことで発見を試みます。
この原始的な方法は大変な労力を要し、20人の捜索隊員が100m×100mの範囲をカバーするのに、3点プロービング法を用いて20時間ほど掛かります。
3点プロービング法とは、隊員自身の正面・左・右の3箇所をプローブで刺して探す方法です。3mの長さのプローブを手元まで完全に積雪内に刺し込み、号令で一斉に20人が一歩前に進み、同じ作業を繰り返します。
早く見つけなければならないという焦る気持ちと膨大な労力を必要とし、精神的にも肉体的にも極めて過酷な捜索方法です。
そして、この3点プローブ法を行っても、対象区域の8~9割程度しかカバーできず、埋没者を見逃してしまうこともあります。
一方、最新の3本アンテナを内蔵したビーコンを用いた場合、捜索者が基礎的な訓練を受けていれば5分程度で位置特定が可能です。
簡単にまとめると、プローブでの捜索は、時間的・体力的・精神的な負担が大きいということです。
この負担を、ビーコンを持つことで確実に減らすことができます。
事実、私自身も、数日間のトレーニングで、雪に埋められた2つのビーコンを5分もあれば探せるようになりました。
ビーコンでの捜索は圧倒的に早いのです。
捜索隊のリスクを減らすために
また、ビーコンを持つことで、捜索隊のリスクも減らすことができます。
雪崩で雪が落ちた斜面は、もう落ちる雪が無いので安全ですが、その周辺はまだ危険が残っています。
そこに、プローブ捜索のために長時間いるのは、捜索隊が2次発生の雪崩に巻き込まれるリスクを増やします。
自分を捜索しに来た人が雪崩の被害に遭うなんて、考えたくもありませんよね?
ビーコンを持っていたからといって、そのリスクをゼロにすることはできません。
ですが、ビーコンがあれば、上の引用のように捜索の時間は短くできるので、リスクを減らすことができます。
家族の負担を減らすために
ビーコンを持つことで、残された家族への負担も減らすことができます。
地域によって、捜索が無償だったり有償だったりと違いはありますが、ビーコンがなくて捜索に時間が掛かれば、その費用が莫大になる可能性があります。
私は、実際に捜索に関わった方から話を聞いたことがあるのですが、その捜索はビーコンを持たずに大規模な雪崩にあったため難航したようです。
そのとき、費用が莫大になると家族に伝えたのですが、家族からは「いくら掛かっても良いから、早く捜して下さい」とお願いされたそうです。
捜索した方は、「ビーコンさえ持っていてくれれば、家族の負担は減らせたのに」と思ったそうです。
この話を聞いて、私の家族もお金が掛かるからといって「捜索をしないで」とは言えないと感じたのです。
私は、万が一に備え、保険に加入してはいます。
ですが、捜索が数日になってしまえば、保険では賄いきれなくなる可能性だってあります。
その捜索費用は、残された家族に請求されるでしょうから、そうならないために、ソロのときでもビーコンを身につけるようにしています。
これからもビーコンは持ち続ける
以上、私がソロでバックカントリーに行くときにも、ビーコンを持っていく理由を書いてきました。
私自身、1人で山に行くのは止めるべきかと悩んでいるところはあります。
ただ、ソロにはソロの魅力がありますし、ソロだからこその学びもあるので、いまだに答えは出ていません。
なので、これからも1人でバックカントリーに行くときには、最低限、ビーコンは持ち続けようと思っています。